Nextepisode’s blog

院生(M1) 専門-開発経済/国際関係

LGBT~みなが生きやすいと思える社会の構築〜

 

2015年6月26日、アメリカで同性婚が合憲だという判決が最高裁で下された。日本はこれ以上、LGBTの人たちの当たり前の権利を等閑視できなくなった。数日前、Yahooのトップにスペイン人女性と日本人女性がスペインで同性結婚をしたという記事が掲載されていた。詳細についてはぜひ記事を読んでほしい。

mainichi.jp

 

私にも同性愛者の知り合いがいる。高校生の頃、彼の家で話した日に「男性の肉体に生まれたことへの幼少期からの違和感」を告白された。当時高校生だった私は、同性愛者に対する理解も十分になく「自分とは違う人間なんだ」と少しだけ距離を置いてしまった。次に彼と会った時、彼は高校を中退していた。

 

LGBTが日本で関心を集めるようになったのは、つい最近のことだと思う。1998年10月、埼玉医科大学総合医療センターの原科考雄教授が日本国内初の公式な性別再判定手術で日本発のFTM( Female to Male) の手術となる性転換手術を行った。それを機に、性同一性障害という概念が日本で広まっていった。2000年代に入ると「3年B組金八先生」などでメディア露出が増えた。一定要件のもとに性別を変更できる「性同一性障害特例法」が制定され、性同一性障害という言葉の知名度は急速に向上した。

 

そのような背景を考えると、ちょうど私は、この性同一性障害という概念が広まっていく過程とともに大人になったことになる。日本で初めて性転換手術が行われてからちょうど20年を迎えるが、今日の日本で、LGBTに関して変わっていない部分が大きいと思う。

 

nextepisode.hatenablog.com

 

去年の5月に書いた記事でも問題提起したように、小中学校の教科書ではLGBTのことは触れられていない。子供たちには正確な情報がなく、教える側の教員の理解も十分とは言えない現状がある。

 

news.livedoor.com

 

岡山大学の中塚教授によると、1999-2012年に岡山大学ジェンダークリニックで同一性障害と診断された患者のうち、自殺をしようと考えた人が59%、自傷や自殺未遂をしたことがあると回答した人が28%、不登校になった人は29%にのぼったそうだ。性同一性障害と診断された半数以上の患者は自殺を考えたことがあるという結果は、非常に深刻なものだと思う。

 

不登校の原因としてはトイレや制服、修学旅行などが挙げられている。日本では去年ドン・キホーテユニセックストイレ(LGBT用トイレ)を導入し注目を集めた。性同一性障害を抱える人たちは、誰にも本当のことを話せない孤立感やそのような自分を容認できないといった問題を抱えている。LGBT用トイレの導入は様々な議論を呼び起こしたが、政策の是非は置いておき、このような試みが取られたことには十分な評価ができる。

 

性同一性障害を抱える人のうち、高校卒業までに誰にもカミングアウトできなかった人の割合は、男性で約半数、女性で約三割に上っている。思春期から大人へと成長するこの年代で、自分の本当の気持ちをひた隠しにすることは相当な苦痛だろうと思う。2年前、一橋大学のロースクールに通っていた25歳の男性が、友人に性同一性障害であることをカミングアウトした結果、彼が同性愛者であるということを周囲に広められ、自殺に追いやられたという悲しい事件があった。出生時の性は男性だが、性自認は女性で「男らしくない」とみなされる男性は特に深刻ないじめを受ける。言葉による暴力から、身体的な暴力まで、また度を越えれば、服を脱がされるなどといった性的な暴力を受けている。

 

こうした悲惨な状況にようやく国は重い腰を上げ、2015年4月に文部科学省から「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施等について」という通知が出された。自分の性自認に違和感を覚える児童が安心して通学できるような配慮の方法や、LGBTの生徒全体がいじめやハラスメント、孤立を味わうことのないような環境づくりの必要性について触れている。日本はようやく国レベルで取り組みを始めたようだ。

 

教育の現場で大人たちがやれることはたくさんある。まず必要なのは、大人自身が正確な知識を得ることだ。LGBTに関する研修の機会があれば参加し、なければ地域の中で企画するのもよいだろう。今の大人も学生時代に十分な性教育を受けていない。未だ多くの大人が「性同一性障害」と「同性愛」の違いさえ認識できていない。私のような大学生の中には「これまで生きてきてLGBTの人と出会ったことがない」という学生もいるだろうが、日本にはLGBT層の人が8%いるとされている。出会ったことがないのではなく、カミングアウトされていないだけである。

 

私が在学する大学のある講義で、教壇に立った教員が性同一性障害者であることをカミングアウトした。その講義の終わりに「性同一性障害について考えることを書け」というレポートで「長年の友人に性同一性障害であることを告白されました。私はこれまで彼の症状に全く気づかす、安易な言葉で彼を傷つけてしまった場面があったとおもい、今でも後悔しています」と、ある学生が書いたそうだ。私自身、冒頭で述べたように、性同一性障害者や同性愛者についての理解が不十分になかった時期があった。今の自分に「彼らに対する理解は十分か?」と問い直した時、素直に首を縦に振れるであろうか?

 

最後にカナダで毎年開催されている「ピンクシャツの日」を紹介してこの記事を書き終わることにしたい。

 

Pinkshirtday(ピンクシャツの日)。カナダでは毎年、2月の最終水曜日を「いじめ反対の日」に掲げ、国を掲げてピンク色のシャツを着ていじめ撲滅を訴える活動をしている。2007年、カナダのノバ・スコシア州の男子高校生がピンク色のシャツを着てきたというだけで上級生から「ホモ」などとからかわれ暴力などのいじめにあった。それを知った二人の男子生徒がピンク色のシャツを50着ほど購入し、クラスメートのシャツを着るようにメールで依頼。翌朝、学校に行ってみると、連絡をしなかった生徒にもメールが届いており、校内にはピンク色のシャツを着た生徒やピンク色の小物を持った生徒であふれかえった。それ以来、その生徒に対するいじめはなくなったのだという。

 

実のところいじめられた生徒がLGBTだったのかどうかはわからないが、違いを理由にいじめられる人を守るための力は、一人ひとりにあるのだ。

 

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2016年6月15日、イギリスの同性愛者向けの雑誌「アティテュード」は次号の表紙がウィリアム王子だと発表した。彼の表紙の横には"NO ONE SHOULD BE BULLIED FOR THEIR SEXUALITY OR ANY OTHER REASON"(性的志向であれ他の理由であれ、いじめられることはあってはならない)という言葉が添えられている。

 

彼は同性愛者ではないが、異性愛者であっても、立派にこのような発言ができるのだ。LGBTに関して”後進国”と揶揄される日本は、まだまだ理解の途上にある。我々一人ひとりがほんの少し理解を深めるだけで、彼らが生きやすいと思える社会を構築することは可能だ。

 

未来の社会に誰も置き去りにしてはならない