Nextepisode’s blog

院生(M1) 専門-開発経済/国際関係

準強姦にみる現行法の穴

 

準強制性交とは、相手に薬物や酒などを飲ませて抵抗不能な状態にしたり、既にそのような状態にある相手に対し、性交を強要する行為を指す。今は準強制性交と呼ばれるが、それまでは準強姦と呼ばれていた。暴力や脅迫によって性交を強いる強姦では、身体にアザや傷が生じたり、衣類等が損傷するといった証拠が残りやすい。ところが準強姦では、被害者の意識レベルが著しく低下した状態で性交が強要されることから、証拠が残りにくく、立証が難しい犯罪だと言われている。また、抵拒不能とは一体どのような状態なのかについて必ずしも明確ではなく、裁判で議論になるケースは多い。

 

抵拒不能とは、抵抗が著しく困難な状態のことだと言われている。もちろんそれは相対的な判断であるから、暴行や脅迫の様態、時間的・場所的状況、被害者の年齢等の事情を考慮して客観的に判断されることになる。手段の強度を緩めると被害者保護につながるように見えるが、現実はそうとは限らず、犯行困難の程度を判断するときに被害者の態度が問題とされることがある。そして、抵抗する余地があったのに、なぜ抵抗しなかったのか?なぜ叫ばなかったのか?などの残酷な質問が被害者を打ちのめす。性交を同意している者に性交のための暴行・脅迫を加えることはないから、被害者が抵抗をしなかったように見えることが同意を推定され、暴行・脅迫の評価にプラスの影響を与えるのだとすれば、なんともそれは本末転倒な議論である。

 

準強姦でも、薬物の種類や量、摂取したアルコールの量、性行為に至るまでとその後の状況などの情況証拠から慎重に推論を重ねて性交時の同意の有無が認定されることになるが、意識朦朧状態での性交について、拒絶・抵抗しなかったことを「抵拒不能」の判断資料とすべきではない。「抵拒不能」は、錯誤に基づく同意の場合にも、心理的な抵拒不能として問題になる。過去の裁判例では、プロダクションの経営者がモデルになるのに必要だと偽って、被害女性に性的行為を同意させたようなケースがある。このような場合に、被害者の意思決定の自由が不当に制限されたとして、準強姦の成立を認めた裁判例も多いが、性交自体についての錯誤はなく、動機の錯誤に過ぎないから準強姦罪は成立しないという学説も少なくない。

 

虚偽の内容や程度にもよるが、加害者は被害者の弱みに付け込み、誤信させたことによって簡単に性行為の同意を取り付けたのであるから、被害者の人格を否定し、性的欲望の単なる客体に貶めたとして準強姦罪や準強制わいせつ罪の成立を認めてもよい。騙して得たものが金品ならば詐欺罪になるのに、それが被害者の身体ならば許されるのはどうなのか。

 

去年、刑法の性犯罪規定は大きく改正された。その背景には、性犯罪を個人の性的自由を侵す犯罪というよりも、人の性的尊厳を傷つける犯罪と見るべきだという意見も影響を与えた。性的自由を問題にすると、犯罪の成否が、被害者がどれだけ意思決定の自由を奪われたのかという量的な問題として矮小化されるおそれがある。性犯罪は、むやみに他人から性的干渉を受けない権利、すなわち性的不可侵性ないしは性的尊厳を侵害する犯罪行為ととらえるべきである。

 

同意の要件は、性犯罪の中心に位置付けられるべきではない。性的尊厳の否定へとつながるような行為がなされたのかどうかが問題の入り口であって、被害者の同意はその規範的なマイナスを埋め合わせる要件とされるべきである。被害者が同意の存在を否定するならば、同意があったとの行為者の主張に客観的に認められる程度の証明資料を用意できたような場合がその典型例であろう。そうでなければ、同意があったという抗弁を認めるべきではない。相手が性行為に同意しているという身勝手な誤信は、故意がなかったということと決してイコールではない。

 

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