Nextepisode’s blog

院生(M1) 専門-開発経済/国際関係

暴徒化する中米の北部三角地帯

 

ここ最近難民を扱うニュースが減ってきているが、海外のニュースを観ていると状況は何ら変わっていないことがわかる。紛争による大量の難民を想定していなかった従来の保護体制が限界をきたしていることは明らかである。難民というと、我々の多くは中東やアフリカからの難民に目が集まりがちだ。だが中米でも難民危機が起きていることはほとんど日本では報じられることはない。

 

エルサルバドル、ホンジェラス、グアテマラ。中米の北部三角地帯と呼ばれるこの3ヶ国では、武装したギャング同士による縄張り抗争が激しく、殺人事件が急激に増えている。この事態に国が対策を講じきれていないために、数万人が国外に脱出している。

 

2015年のエルサルバドルでの殺人事件数は人口10万人中108件で、国連は紛争地帯を除いては最も危険な国であるとした。ホンジェラスの殺人事件数は同63件、グアテマラは34件であった。日本が同0.3件であるということを踏まえれば、いずれの国でも殺人事件の最大の被害者は若者で、30歳以下の犠牲者数は全犠牲者の半数以下である。

 

中米では冷戦下、アメリカに支援された軍事政権に対して抵抗運動を行う反政府ゲリラにソ連が軍事・経済支援を強化し、内戦状態にあった。1990年代に和平合意が結ばれ、和平の基盤が築かれたかに見えたが、合意で目指した貧困・社会的不平等の解消は進んでいない。これらの国は、未だに経済的、社会的周縁化と貧困が深刻である。ホンジェラス、グアテマラでは国民の6割、エルサルバドルでは3割が貧困ライン以下で暮らしている。そこから抜け出そうと、メキシコを通って米国を目指す人はもともと多い。

 

しかし、ここ数年で国を離れる最も大きな理由は、経済的な理由ではなく「危なくて住めない」ことである。社会がかつてなく暴力化する中で、難民として庇護を求める件数は、急増の一途をたどっている。かつての紛争時以来の難民問題である。暴力化の背景にあるのは「マーラ」と呼ばれる米国のギャングの流入だが、警察による暴力も多発している。

 

一方、メキシコやアメリカなどによる送還件数も増えている。命の危険がある場所への送還は国際法違反の非難すべき行為である。だが、この危機の一番の責任は、エルサルバドル、ホンジェラス、グアテマラの政府にある。暴力から市民が逃げ出していることを否定しているが、この事態を直視し、根本にある問題の解決に力を注ぐべきだ。

 

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