Nextepisode’s blog

院生(M1) 専門-開発経済/国際関係

制御不能の労働力不足

 

去年2017年度の失業率は23年ぶりに3%を下回り(2.8%) 、有効求人倍率は1.59と1974年1月の1.64以来44年ぶりの水準であった。高度経済成長の後半からバブル期のピークさえ抜くかのように思えたほどであった。しかし、日本が抱える人手不足は今後さらに深刻化する可能性がある。

 

第2次および第3次安倍政権の4年間に就業者数は200万人以上も増えており、これは生産年齢人口が年率1%近く減る中で、高大な数字だ。もっとも、その内実をみると、増えたのはもっぱら非正規雇用の短時間労働者であり、人数×労働時間で測った労働投入量はほとんど増えていない。ゆえに、経済成長率に反映されなというわけである。

 

こうした短時間労働者が大幅に増えた理由の一つは、団塊世代が予想以上に働き続けたことにある。ただし、主に再雇用などでフルタイムで働くわけではないから、労働時間は大きく減少している。もう一つは、主婦パートの増加である。ここ数年、女性の労働参加率は顕著に上昇しているが、保育所の不足などもあってフルタイムで働く女性はあまり増えていない。配偶者控除の上限を気にして就労調整するような短時間のパートが大半である。

 

もちろん、こうした短時間労働者の増加自体は好ましいことである。安倍政権下の平均実質成長率は1.3%だが、もし短時間労働者の増加がなかったら1%を下回っていただろう。労働者不足対策としての高齢者と女性の活用が進んでいるのは、間違いのない事実である。また、”非正規雇用=不幸な人”という捉え方は偏頗である。今増えているのは、定年を過ぎても元気に働き続ける高齢者であり、子育てを終えて時間に余裕のある主婦たちだ。就職戦線は完全に売り手市場だから、新卒時に正規雇用を望んでも職が得られず、仕方なく非正規雇用に就いた人の数は着実に減少してきている。それに、非正規雇用の賃金水準は低いが、正規雇用との格差は縮小している。企業収益は好調でも、中期的な競争力への不安から組織労働者の賃金はほとんど上がっていない。一方で、パート、アルバイトの時給は、労働需給の逼迫を素直に反映する形で年々上昇が続いている。

 

問題は、短時間労働者で人出不足を補うという方法は持続性を欠くということにある。実際、短時間労働者の増加は限界に近づいているのではないだろうか。その根拠は、団塊世代が去年から70歳代に入ったということだ。さすがに70歳を越えればリタイアする人も増えてくるだろう。また、女性の労働参加率はすでに米国並みにまで高まっている。北欧の水準にはまだ遠いが、北欧とは社会の仕組みが大きく異なる。これまでのような勢いで労働参加率が上昇を続けるとは想像しがたい。

 

宅配便の限界が大きな話題になるなど、人手不足は深刻な状況にある。そう考えると、日本で必要なのは生産性の向上とフルタイムの女性就労を支援することだろう。建設業界が残業時間の制限に適用猶予を求めているようなときに、景気対策で公共事業を増やしているのをみると、うつけたように立ち尽くしてしまう。

 

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