Nextepisode’s blog

院生(M1) 専門-開発経済/国際関係

外国人労働者受け入れについて考えたい

 

 

 

2008年の1億2808万人をピークに日本の人口は減少に転じた。それを機に、日本ではどのようにして人口減少時代に対応するのかという議論が過熱してきたように思う。その一方で、日本が今日に直面する人口減少はもっと以前から予測ができたことは否めないだろう。歴史を俯瞰してみると、1920年から死亡率と出生率がともに減少傾向を示しはじめており、大正末期には既に人口動態は多産少死から少産少死へと移行していた。しかし、多くの国民が人口減少を問題視するようになったのは1989年だったように思う。この年は「1.57ショック」と言われ、合計特殊出生率が丙年の1966年を下回った。実際、1957年から1964年にかけて合計特殊出生率が置き換え水準を割り込んでいたことからも、人口減少の始まりから我々が認識するまでの間には長い時差を要したことになる。

 

一方で、筆者の問題意識は人口減少にはなく、人口動態が変化していくことにある。より詳細に言えば、人口動態が年々高齢化し、労働人口や子供の割合が減ってゆく少子高齢化である。従って本稿では、人口減少には紙幅を割かず、少子高齢化にスポットを当て、少子高齢化が進んできた背景を時代を遡って俯瞰し、今後日本がとるべき姿勢について検討、提言することを最低限の目標とする。

 

1970年、ローマ・クラブが「成長の限界」というレポートを発表した。このレポートでは、天然資源や環境汚染の観点からみて、既に世界人口は地球が許容できるレベルである「臨界点」に近づきつつあると警鐘を鳴らすものであった。このローマ・クラブが発表したレポートは世界的な関心を集め、中国では79年から一人っ子政策が導入され、インドではハネムーン政策と呼ばれる、結婚後2年間子供が産まれなかったら現金5000ルピー(約9200円)、もう1年間産まれなかったらさらに2500ルピー(約4600円)がもらえる政策が導入された。ここから言えるのは、日本のみではなく世界全体で、出生率の低下は「望ましい状態」と認識されていたということである。だがその結末は少子高齢化であった。今日の世界では、アフリカの国々と一部の南米諸国を除いて、ほぼ例外なく多くの国で少子高齢化という問題に直面している。

 

1945年の終戦時には、日本の合計特殊出生率は4を超えていた。一方で、1949年に当時の厚生大臣であった林譲治は、「現在の人口増加状態がこのまま放置されては日本の将来の復興にとって由々しき問題となる」と発言している。林はアメリカの家庭の平均子供数にならって、子供数を2.5人程度にすべきと主張している。民主自民党は、当時移民が不可能であるということから産児制限が「重大な基礎の方法」であると肯定している。

 

実は、当時日本がここまで人口増加に躊躇だったことには理由がある。それは日本が45年にポツダム宣言を受け入れるまでに起きた数々の凄惨な戦争の要因を、日本国内の人口圧力に起因していたことにある。昭和20年9月11日に発刊された朝日新聞では、「狭小なる国土に8千万人の人間を養わねばならぬ事態となって、海外進出の問題は今後の課題として新しい意義と重要さを持ってくる」と述べられ、国土面積の制約から当時の8千万人という人口でも過剰であり、それが戦争の原因となったことを示唆しているのである。戦争の残像すら知らない現代の国民にとっては、少子高齢化を働き方や日本の文化に起因しようとする意見が一般的である。しかし歴史的にみれば、それより以前に人口減少を地球の有限性やエントロピー、人口圧力が戦争の原因だったとして肯定してきたのである。

 

確かに、地球の資源は有限である。このまま未曾有の人口増加が進むと、地球の許容レベルを超え人間の生命を脅かす問題となるのであろう。しかし、その段階に入る前に、意図的に人口を抑制することで社会は少子高齢化に直面するのである。冒頭でも述べたが、少子高齢化は100年も前から予測可能であった。だが我々は人口が増加する日本にのみ問題認識を持ち、人口を抑制することで人口動態が変化し、社会が少子高齢化に直面することには鈍感であったのだ。

 

しかしながら、今となっては後の祭りだ。我々は少子高齢化の釜中にあるのだ。ゆえに今後我々がとるべき姿勢について建設的な議論の場を設けていかなければならない。そこで残りの紙幅は、少子高齢化が原因で直面している「労働不足」問題に注視し幾つかの提言を行っていきたいと思う。具体的には、日本の労働力不足を補うために期待される「外国人労働者の受け入れ」に対して、本当にそれが現実的に日本の労働力不足に寄与するのかということを検討していきたい。

 

総務省の発表によると、日本の労働人口は総人口に先駆けて1998年にピークを迎えてから減少を続けている。2015年平均では1998年のピーク時と比較して200万人少ない6598万人となっている。四国地方全体の労働人口が191万人であることから、この15年程度の間に、四国分の労働力が日本から消えたことになる。一般的に65歳以上の高齢者が総人口の7%を超えると高齢化社会、14%を超えると高齢社会、21%を超えると超高齢社会と呼ばれる。世界銀行の世界人口調査によると、2016時点で超高齢化社会に属するのは日本(26,86%)、イタリア(22,75%)、ギリシャ(21,60%)、ドイツ(21,45%)、フィンランド(21,02%)の5ヶ国のみである。その中でもとりわけ日本の高齢化率は顕著であり、日本は1994年に高齢社会、2007年に超高齢社会に突入している。今後日本の高齢化は更に深刻化し、2030年には総人口の3人に1人(31,6%)が65歳以上と予想されている。

 

一方、労働人口については、労働政策研究・研修機構が推計している。その推計によると、経済成長をゼロ成長と仮定した場合、2020年に6314万人、2030年には5800万人まで縮小する。これは2014年度の実績値に比べれば、2030年までの約15年間に700万人強の労働力を失うことになる。日本では1998年から2015年までの約15年間に四国地方相当の労働力が失われたが、次の15年では更に東海地方の労働力人口相当が失われるのだ。

 

 

2015年10月に発足した第3次安倍政権の目玉政策の一つに「一億総活躍社会」がある。少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持し、家庭・職場・地域で誰もが活躍できる社会を目指すという。具体的には、同時に発表したアベノミクスの新しい「3本の矢」を軸に、経済成長、子育て支援、安定した社会保障の実現を目指している。経済面では「希望を生み出す強い経済」、子育て面では「夢をつむぐ子育て支援」、社会保障面では「安心につながる社会保障」がそれにあたる。

 

だが、労働政策研究・研修機構が発表している推計では、経済成長が回復して実質2%の水準になった上、若者や女性、高齢者等の労働市場への参加が進むという前提において、2014年時と比較して、2030年までに225万人の労働人口が減少するとされている。高齢者が今よりも5年長く働き、出産・子育て世代も働いたとしても、日本は今よりも少ない労働力で社会を維持していかなければならない。

 

そのような背景から、日本は民間と協力し衰退する日本の労働力を海外からの労働力で補おうと考えている。例えば、ローソンでは2009年より新規採用の3割を外国人にするという数値目標を設定し、2年後の2011年には3割の目標を達成している。また、ローソンはベトナムにおいて現地の人材教育機関と連帯し、日本への留学予定の学生に対して、コンビニエンスストアの業務等を学ぶ研修を開いている。これには来日する留学生に留学先付近の店舗で働いてもらおうと考えているからである。また、楽天は2010に社内公用語の英語化を宣言した。2014年に入社した開発職の100人中8割以上が外国籍と、外国人のエンジニア採用が進んでいる。またこれら以外の企業でも、管理職昇級の条件に英語の能力を要求したりと積極的に外国人労働者を採用しようとしている。

 

しかし、状況はそう楽天的とは言えないようである。というのも、少子高齢化が進み、労働人口の減少に直面しているの国は何も日本のみではないのだ。これまで生産年齢人口が増加の一途であり、労働者を送り出す側であった中国でも、2015年以降生産年齢人口が減少に転じ、2025年頃には中国においても総人口の減少が始まるのである。インドネシアではスハルトが画期的な人口抑制政策を行って以降少子高齢化が進んできた。日本が労働力不足を外国人労働者で補おうと雄弁に語るとき、「門戸を開けば日本に来てくれる外国人がいる」という前提がある。だが、実際はどうだろうか。

 

韓国で働く外国人労働者は2016年5月時点で約96万人であり、日本で働く外国人108万人と比べ若干少なくなっている。しかし、韓国の人口は約5150万人で日本の人口の半分以下である。台湾で働く外国人労働者は約60万人であるが、台湾の人口が日本の5分の1以下であることを考えるといかに日本で働く外国人労働者の数が少ないのかがわかる。今日、世界中の多くの国で直面している労働力不足だ。働く側にも選択肢があるのである。日本では長時間問題や所得水準(世界中の先進国と比較すると、日本の給与水準は決して高いと言えない)が直接の阻止要因となっている。また柔軟性のない教育や言語問題、地理的な距離も外国人が日本を敬遠する要因として考えられる。

そんな日本とは対称的に外国人の受け入れ体制が整っている国に北欧のスウェーデンが挙げられる。スウェーデンの例は日本にとって参考にすべき点が多いように思うので、簡潔に紹介したい。

 

スウェーデンの第二の都市ヨーテポリとその周辺の西スウェーデン地域には、世界各国の大企業が集積している。この地域では世界から高度人材を確保するために”Global Talent Gothenburg/West Sweden”というプロジェクトが始動している。同プロジェクトは、国際的に高度人材を獲得する競争が激化する中、この地域に高度人材を呼び寄せるためには何が必要か、という項目の洗い出しが行われている。主なアクションプランの内容としては、情報共有のためのホームページ「Move to West Sweden」の開設、学生の職探しの支援、配偶者の職探しの支援、家探しの支援などが含まれている。日本は政府主導でこのような先駆的な取り組みを行っている。

 

これはスウェーデンの事例だが、イギリスや韓国、オーストラリアなどでも先駆的な取り組みが行われている。このような国々の取り組みを知るたび、外国人労働者を「呼べば来る」と捉えている日本の崩壊する未来が透けて見える。繰り返すが、これまで労働力を供給する側であった途上国の国々でも、近年着実に少子高齢化に向かっている。そのような時代の中で、どのように外国から労働者を呼び寄せるか、日本は政府を中心に早急に建設的な議論をしていく必要があるのではないだろうか。

 

 

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